迫害された超能力者たち

Obernewtyn  by Carmody, Isobelle ©1987 Tor 246p
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 今年読みたい未読作家の本の候補の中で一番古い作品”Obernewtyn”を読みました。未読といいながら、実はIsobelle Carmodyという作家は私にとってまったく初めてではなく(看板に偽りありですね)、以前に受講していた児童書の翻訳クラスで要約の作成課題として出た短編集に登場し、たまたま私が担当したのでした。そのときの作品はファンタジーではありませんでしたが。
 ”Obernewtyn”も児童書として出版されましたが、私の購入した本は特に「児童向き」とうたっているわけではありませんでした。表紙をめくると、推薦文にそうそうたるファンタジー作家の名前が連なっています。ロイド・アリグザンダー(以前”The Marvelous Misadventures of Sebastian”を紹介)、アンドレ・ノートン(私のブログでは未紹介ですが、結構お気に入りの作家)、チャールズ・デ・リント(「リトル・カントリー」(創元推理文庫)など邦訳もあり)、ジェフリー・フォード(「白い果実」(国書刊行会)で世界幻想文学大賞受賞)、タモラ・ピアス(最近「女騎士・アランナ」シリーズの訳書(PHP研究所)登場)。
 冒頭にシリーズの舞台となる世界の設定が説明されています。「Grate White」として知られる大量破壊(核戦争を思わせる)の後、都市から離れた辺境の地に住む一部の人間だけが生き残り、次第にそのうちの有力者が台頭するようになります。有力者は「議会」を創設し、強力な権限で人間を選別しました。放射線(?)に汚染されたと思われる土地からの避難民は殺されました。特異な能力を持つ者も放射線の影響による「突然変異」と推測され、火あぶりという過酷な運命が待ち受けているのでした。火あぶりになった者のこどもたちは孤児院に送られ、外界とは接触を絶ち監視されながら「正常者」には危険とみなされる汚染地域付近での労働などを課せられます。はじめは「正常」にみえるこどもも、特異な能力が現れると「不適合者」の称号をつけられ、火あぶりは免れるものの辺境にある「Obernewtyn」という施設に送られることになるのでした。この施設に入った者は一生その外壁の外には出られないということでした。

 主人公エルスペスは「議会」に両親を殺され孤児院で暮らす少女。監視者の注目を浴びないよう控えめに過ごしていたが、実は孤児院に出入りする猫マルマンと心の中で会話したことがきっかけで、テレパシー能力があることを発見していたのだった。監視者がそれを知れば、間違いなく「不適合者」だ。エルスペスには同じ孤児院で暮らす兄ジェスがいたが、その兄はうまいこと監視者たちに取り入ったのか、監視者たちの助手となっていた。ある日汚染が残る地域に仕事に出かけたエルスペスたちは、途中増水した川を渡る。その最中にエルスペスは足を踏み外し、川岸の岩で頭を打った。そして汚染されている川の水に下半身がつかってしまった。
 しばらくして「Obernewtyn」からひとりの監督者が孤児院にやってきた。孤児たちはその監督者マダム・ヴェガに目をつけられないよう、普段にも増して控えめに振舞ったが、マダム・ヴェガは意外にもやさしい態度で「Obernewtyn」はうわさされるような恐ろしいところではないと孤児たちを諭す。マダム・ヴェガが孤児院を去る前にたまたまお茶を出す担当になったエルスペスは、ガチガチになっているのを見抜かれてしまう。テレパシー能力は見破られなかったものの、以前汚染された川につかったこと、その後ときどき正夢を見るようになったことなどが判明し、「生まれながら」ではないにしても「後天的に」汚染を浴びた「不適合者」としてエルスペスは「Obernewtyn」へ送られる。
 Obernewtynへ向かう馬車には、猫のマルマンがこっそり乗り込んでいた。またエルスペスは御者と親しくなった。御者によれば、友人がObernewtynの農場で働いているという。マルマンがそばにいるという心強さと、御者の友人に会うことを期待してエルスペスはObernewtynの門をくぐった。翌日は朝早く起こされ、台所での仕事が割り当てられた。仕事を割り当てたのはアリエルという10を少し過ぎたばかりの美少年。「不適合者」には違いなかったが、態度が大きく、監督者にかわいがられ、監視的な仕事をしているのだった。台所での仕事はきつく、料理番の母子はエルスペスにつらくあたった。Obernewtynは友人をつくるという環境にはなかったが、気になる少女がふたりいた。ひとりは最初の日にエルスペスを起こしに来たセルマーという少女。いつもおどおどして、特にアリエルには異常におびえるような態度をとっていた。もうひとりはカメオ。小柄で繊細な少女で最初にエルスペスに話しかけてきた。だが料理番がにらむため会話ができないままになってしまった。きつい仕事にも次第になれてきたが、農繁期となってその役割はおわり、エルスペスは農場で働くことになった。
 農場へは複雑な迷路を通らないと行かれない。迷路の道順を知っているのはアリエルとほか数人だけだった。一度見学した後、実際に農場で働くようになったエルスペスだが、厩の掃除の時に馬に話しかけたことで仕事が手早く済ませられたので、監督者たちに疑いの目を向けられるところだった。御者の友人というラシュトンは、御者のような気さくな人間ではなく期待はずれだったが、農場の仕事をするうちに、同じようにテレパシー能力を持つマシュウとその友人で盲目のダミオンと親しくなった。
 昼食時に友人と話をするうちに、Obernewtynの創設者セラフィムは「不適合者」とされたこどもたちのための避難所として独立した施設を建設したのだが、その後、後継者によって「不適合者」の特異な能力を利用し、自分たちの権力増強を図る施設となっていったようだった。創設者の孫である「ドクター」とマダム・ヴェガは特に強力な「特異能力」を持つ者を探して孤児院をまわり、Obernewtyn内の「不適合者」の行動を監視してきたが、その餌食となったのがセルマーとカメオだった。
 ある日エルスペスは呼び出されてテストを受けさせられる。テレパシー能力が見つかれば、セルマーやカメオと同じように人格がなくなっていくのではないかと恐れたエルスペスだったが、幸い見破られずにすんだ。しかもその過程で、実は支配者であるドクター・セラフィムは、名目上の支配者で、実験を握っているのはマダム・ヴェガとドクターの助手という立場のアレクシという男ということがわかった。その後の調査やマシュウたちの話から判明したのは、彼らは世界の破滅以前の機械装置を見つけ、テレパシー能力があると思われる「不適合者」をその装置にかけて、過去の人物の記憶を探ろうとしており、それにより、世界を破滅に追い込んだ装置を発見し、自分たちが世界を支配することをもくろんでいるらしいということだった。
 そんな時、孤児院時代に親しくしていたロザモンドがObernewtynに送られてきた。驚くエルスペスにロザモンドは兄ジェスの死を告げる。外部の者と通じて監視者を殺したために殺されたというのだ。驚くエルスペスだったが、議会がジェスの妹に興味を持つのも時間の問題だと気づき、Obernewtynを逃れることを真剣に考え始める。そのためにはマダム・ヴェガたちの陰謀をよりよく知る必要もあった。

 この作品は児童書として書かれたせいか、最後のところでエルスペスが危機に陥った際の解決策にはちょっとご都合主義的なものを感じましたが、作品の背景や人物などはしっかり構成されており、あまり頻繁に出てこない人物も読者にそれなりの印象を残すように描かれています。天使のような美少年アリエルの傲慢さは特に印象的で、「不適合者」がObernewtynを逃げ出すたびに狼を放つなど残忍な面をも見せます(そのシーンを直接描かないのはさすがに児童書です)。ただ、Obernewtynでの労働は過酷だということになっているわりには、その過酷さはあまり感じとれませんでした。
 エルスペスのテレパシー能力は猫によって扉が開かれましたが、絶対に人に知られてはならないという制約の中、自分でもどの程度のものなのかを知る機会はありませんでした。しかしObernewtynで同じ能力をもつマシュウという友人を得、しかも彼にその能力の高さを指摘され、また同じ能力を持つと思われるセルマーやカメオが悪者たちの餌食にされる中、少しずつその能力を開発していきます。近くにいる人物にはあまり力を使わずにテレパシーを送ることができますが、どこにいるかわからない人物を探すには力が必要です。だんだん力を強力にしながら範囲を広げていくというやり方を試しているとき、非常に強力な何者かがエルスペスを引き寄せにかかりました。エルスペスはマシュウたちの協力を得ながら抵抗しましたが、強力な力に次第に抵抗力が弱まっていくところを、別の強力な意識が間に立ちはだかってくれて、逃れられたのです。この強力なふたつの力については、その後まったく触れられなかったので、恐らく次の巻以降に登場するのではないかと楽しみです。


〈The Obernewtyn Chronicles〉3部作 作品リスト

  1. Obernewtyn 1987 ☆
  2. The Farseekers 1990 ★
  3. Ashling 1995 ★


Obernewtyn (Obernewtyn Chronicles)

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この記事へのコメント

2007年11月23日 14:31
”Obernewtyn”は「ミスフィットの秘密」というタイトルで2007年11月に小学館ルルル文庫より翻訳が出版されました。

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