魔法螺の乱毒ファンタジー

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<<   作成日時 : 2006/08/14 06:00   >>

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Jonathan Strange & Mr Norrell  by Clarke, Susanna ©2004 Bloomsbury 1006p
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 最近、分厚い本が増えてきているのですが、1冊で1000ページを越える本を読むのは初めてのことでした。4ヶ月以内で読み終わるかという当初の目論見ははずれ、5ヶ月近くもかかってしまいました。
 読みたいと思ったのはまだP・Bになる前、書店で見かけてからです。大きくて分厚い黒い本で、タイトルと著者名、それにカラスのシルエットが白抜きになっており、ファンタジーらしい雰囲気が伝わってきました。購入したのは小型のペーパーバック版が出てからで、表紙にはもとの図柄に加え、木立の中をうねる小道の風景が描かれたものになっていました。
 内容は、タイトルになっているふたりの人物(魔術師)が張り合いながら、魔法が失われてしまった19世紀初頭のイギリスに魔法をよみがえらせるというものです。ナポレオン戦争など、史実に基づきながら、魔法を操っているつもりのふたりが、その魔法の予想外の作用に次第に捕らえられ、破滅に向かっていきます。ただし、破滅してしまうところまではいかないのですが。

 はじめに登場するのはヨークにある魔術師協会とそのメンバーであるセガンダス氏。魔術師協会とはいっても、そのメンバーたる「魔術師」とは、魔法を使う人ではなく魔法について研究する人のことだった。それはおかしい、と新入りのメンバーであるセガンダス氏は思っていたのだが、協会のメンバーはひとりを除いて、こぞって魔法の実践など今時ありえないと一笑に付した。味方をしてくれたもうひとりのメンバー、ハニーフット氏が、片田舎でひっそりと魔術の研究をしている魔術師のことを思い出し、ふたりは協会と付き合いたがらないこの魔術師を訪ねてみることにした。
 その魔術師ノレル氏の屋敷を訪ねたふたりは蔵書の多さにびっくり。また、ノレル氏が実際に魔法を使うと聞いて、実践してもらう。その条件となったのは「魔法を使わない魔術師協会のメンバーは今後魔術師を名乗らない」こと。約束の日、ノレル氏はヨークに現れることはなかったが、ヨークの大聖堂にあるいくつもの彫像がしゃべりだした。
 その後ようやく主人公のひとりノレル氏の視点で物語が進行する。隠遁生活を送っていたノレル氏は周囲の勧めもあってロンドンに出てくる。そこで知り合ったのが怪しげな二人組のドロウライト氏とラッセル氏。ふたりはノレル氏を政界の大物に推薦しようとするのだが、魔法など信じていない面々にはなかなか相手にしてもらえない。そんな時、若い貴族のウォルター・ポール卿の婚約者が急死した。ノレル氏は魔法の力で死者をよみがえらせる。とはいっても、自力でできたわけではなく、実はまず妖精を呼び出し、蘇生のほうは妖精にやらせたのだった。このことをノレル氏は誰にも明かさなかった。そのときの約束で彼女の命の半分をその妖精に与えることなる。これが曲者で、よみがえった婚約者はすっかり元気になり、めでたくウォルター卿と結婚したまではよかったが、その後夜の時間を(見た目は眠っているが)妖精の遊びにつき合わされ、昼間はぐったりするようになってしまう。
 ウォルター卿の一件で政界からも注目されるようになったノレル氏は、ナポレオンとの戦争の手助けを依頼される。フランス軍の前に幻の船を出したりするなどの協力により、ノレル氏とその能力は次第に世間に認められるようになった。
 そんな頃、もうひとりの魔術師が誕生した。ジョナサン・ストレンジ氏は何を職業にするか決めかねていた。というより、何をやってもすぐに飽きてしまうのだった。ある日通りがかった道端で、浮浪者に「あんたは魔術師になる」という予言(?)を投げかけられ、それを真に受けて魔術の勉強を始めた。そしてイングランド唯一の魔術師ノレル氏に弟子入りすることになる。ノレル氏は同業者として真に魔法について語り合える相手ができたことを喜んだが、内心は複雑だった。嫉妬深いノレル氏は自分の莫大な蔵書のうち重要だと考えるものを見せることを拒み、弟子の力が自分の能力を超えてしまうことを恐れた。実際、偏屈なノレル氏より気さくなストレンジのほうがお偉方にも受けがいいのだ。
 しかしストレンジを追い払う好機がやってきた。政府はなかなか勝機の見えないナポレオン戦争に魔術師を従軍させることを思いついたのだ。いろいろな幻影を見せるだけでなく、実際に戦場へ行ってもらったほうが効果的だとふんだのだ。ストレンジは従軍する代わりに「参考書」が必要と主張し、ノレル氏から貴重な本を数冊借りることに成功した。その後ふたりの仲はますます険悪になり、巷の人々の話題にものぼるようになる。
 一方、ノレル氏が以前に呼び出した妖精はウォルター・ポール令夫人の夜の時間を奪ったのを手始めに、気に入った人間を自分の意のままにしようとする。その標的となったのがポール家の召使頭スティーヴンだった。黒人で奴隷の子として生まれたスティーヴンだったが、優秀な働きによりポール家では重用されており、彼自身仕事が誇りだった。そのスティーヴンを「王になる素質があるのに不当にこき使われているか」と言いくるめ、夜毎にダンスパーティに誘うのだった。そこにいたのがポール令夫人。夫人もたいして楽しそうではなく、スティーヴンも気が進まないのに、妖精のほうはふたりに楽しい思いをさせていると心から信じ、「理想の国を作るためにスティーヴンを国王にしするつもりだ」としきりに言い立てる。「冗談じゃない」と思いつつ、この妖精には逆らうことができないスティーヴンだった。そしてストレンジ夫人アラベラも餌食に。
 一方ナポレオン戦争で大活躍して帰国したストレンジは自分の能力に自信を深め、歴史的に最強の魔術師とされているレイヴン・キングの魔術を身に着けようと妖精界への道を辿る。そんな過程でストレンジの周辺が闇に覆われるようになる。

 ふたりの魔術師の仲は途中非常に険悪になり、この本の終盤で和解するかに見えるのですが、決着がついたりすべての謎が解決したりという終わり方をしないため(私の読解力不足かも)、読み終わってもなんだかすっきりしません。謎の解決や急展開を期待してようやく最後まで辿り着いた読者としては肩透かしをくらった感じ。というか、いったい私はこの本を読みこなせたといえるのでしょうか?
 作中には多くの脚注があり、たとえば本文中である事件や本について言及された場合に、その日時や詳細、本ならば作者、出版年、出版社の情報が長いものでは2ページ以上に渡って記されています。もちろん全部作者の創作なのですが、やたらにもっともらしく、本物らしく見せているところも独特のユーモアが感じられます。10枚ほどの挿絵はすべて暗いタッチで「おどろおどろしい雰囲気」をかもし出しています。作品自体は「おどろおどろしく」はなく「ふたりの歴史上のこっけいな人物をまじめに語る」風で、作者お気に入りのディケンズやジェーン・オースティンの影響もあるようです。実際、ナポレオン戦争従軍の場面など、強力な敵軍に包囲されて絶望的とみるや、町全体を別の場所に移動させてしまったり、悪路の行軍に悩んでいる味方のために行軍の最中だけ目的地までの道をまっすぐな舗装道路に変えたりと突飛な小細工(大細工?)で軍を勝利に導いたことになっていたりするのには思わず苦笑してしまいました。
 ノレル氏が呼び出してしまってあとあと大活躍(?)する妖精は、小柄でもなく、羽も生えておらず、どこから見ても人間にしか見えません。髪が綿毛のように真っ白でつやつやと光っているという特徴があるだけです。姿を見た人には「ポール家にいる白髪の紳士」として知られていますが、特定の人の前にしか姿を見せません。黒人のスティーヴンと並ぶと一対の絵になるようなきりりとした姿で、それもスティーヴンを気に入ってしまった原因かとも思われるのですが、最後までこの妖精は名無しのままでした。

 この本は作者の処女作ですが、いきなりニューヨークタイムズのベストセラーリストに載り、2005年のヒューゴー賞と世界幻想文学大賞を受賞。出版社が同じだったこともあり「大人のハリポタ」とも呼ばれています。実際アマゾンで検索すると「ハリポタ」とあわせて購入している人が多いようです。「ハリポタのような本」を求めた読者はどういう感想を持つでしょう。それより、「指輪」でもよくあるようですが、始めのほうではや挫折なんてことにもなりかねません。この秋に2冊目の出版予定があるとのことですが、今回はこの作品と同時代の、共通する登場人物も出てくる短編集だとか。作者のますますの怪気炎を期待したいところです。私にとっては、これ以上読むにはもっと自力をつけなくてはというところでしょう。

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